24袋を頼んだつもりが、届いたのは24箱。合計288袋。
「うわ、やった」で済ませるには、段ボールが大きすぎる。島根県浜田市の模型店「地球堂模型」で起きた誤発注が、8月4日に中国新聞デジタルの記事として広がっていた。
話の始まりは7月4日。店長の南條達也さんが、ガンダムシリーズのフィギュア付きグミを注文するとき、袋と箱の単位を取り違えたらしい。
段ボールを開ける前から、ちょっと嫌な予感
思い当たらない大きさの荷物が店に届き、商品名を見てミスに気づいた。返品も考えたものの、問屋は手元の在庫を送ったのではなく、メーカーへ発注して用意していた。そこで南條さんは、自分の店で売り切ることにした。
店内には「24個のつもりが24BOXに…」と書いたポップを出し、Xにも写真を投稿。「出来はとってもよい」と商品をちゃんと推しながら、最後は「助けて下さい!(笑)」。深刻すぎず、かといって量の多さは写真で十分伝わる。こういう頼み方なら、近所の人も動きやすかったのだと思う。
ただし、舞台は人口約4万6000人の地方都市にある小さな模型店だ。288袋は、ポストが少し広まったくらいで消える数には見えない。
買いに来た理由が、グミだけではなかった
投稿のあと、客が次々に店へ来た。記事に出てくる常連客は、この店を「第二の家」と呼んでいる。ガンダムには興味がないのに買いに来た、高校時代の同級生もいたそうだ。
広島市から1箱、12袋を買った人の話も印象に残った。7年ほど前、ミニ四駆用の工具を探していたとき、ほかの店では断られた品を、地球堂模型はメーカーへ連絡して取り寄せてくれた。それ以来、月に何度か通い、子どもの誕生日プレゼントまで相談する仲になったという。
誤発注の投稿だけを見れば、その日たまたま起きたネットの話だ。でも、買う側には7年前からの続きがあった。私が引っかかったのは、そっちだった。
地球堂模型は1957年開店。商品を売るだけでなく、ホビーイベントや学校でのジオラマ教室も続けてきた。今回、SNSが急に288袋を消したというより、長く店にたまっていた関係が、SNSを合図に表へ出てきた感じに近い。
2024年の山陰中央新報の店紹介を読むと、もう少し背景が見える。店を開いたのは南條さんの祖母で、南條さんは3代目。閉店へ傾いていた2011年に大阪から地元へ戻り、店を継いだ。天井近くまでプラモデルの箱が並び、接着剤や塗料もそろう、昔ながらの模型店だ。
ネット通販なら型番を入れて終わる買い物でも、こういう店では「この道具で合ってる?」「次は何を作る?」まで会話になる。誕生日プレゼントの相談を任されるのも、その延長なのだろう。グミを買う用事がなくても、店を残しておきたい人がいるのは分かる。
15日後、本当にゼロになった
グミは7月19日に完売。県外から来た人がいて、大阪・日本橋の「アニプラカフェ工房NT-BASE」が在庫の一部を引き受けたことを、地球堂模型がXで報告している。常連客だけで抱え込まず、同業の店まで手を貸していた。
【グミ、完売しました】
24袋の予定が288袋だから、差は264袋。15日でなくなったと考えると、単純平均でも1日17袋ほど売れたことになる。もちろん均等に売れたわけではないだろうが、小さな店の棚から消えていく速さとしてはなかなかだ。
完売後の投稿は、失敗をごまかす内容ではなかった。遠くから来た人や在庫を引き受けた店に触れ、最後は「発注は慎重に」と締めている。ここで妙に成功談へ寄せないのも、この店らしく見えた。
誤発注の話なのに、後味がいい
「助けて」と書けば何でも売れるわけではない。誤発注を宣伝に使ったのでは、と疑われる例もあるし、毎回通用する方法でもない。
今回は、店が自分のミスだと説明し、商品を悪く言わず、買ってくれた人へきちんと礼を返した。それ以前に、欲しい工具を一本取り寄せるような接客を何年も積み重ねていた。
SNSの拡散力はたしかに大きい。でも、この288袋を売ったものに名前を付けるなら、バズより信用のほうがしっくりくる。
見たもの
2026年8月4日確認。アイキャッチは実際の商品ではなくイメージ写真です。写真:Elizabeth Iris/Pexels、Pexels License。1600×1067ピクセルに縮小し、表示時にトリミングしています。