タコには心臓が3つある。数だけ聞くとかなり丈夫そうだが、勢いよく泳ぐと、そのうち全身へ血を送る一つが止まる。
増えた心臓で能力を盛ったというより、海の中で酸素を運ぶために役割を細かく分けた結果らしい。
タコの心臓3つは担当が違う
スミソニアン海洋ポータルの説明では、3つのうち2つは鰓心臓。酸素の少ない血液を、左右のえらへ押し出す。えらで酸素を受け取った血液は、残る一つの体心臓から全身へ送られる。
人間の心臓が一つの中で肺向けと全身向けの仕事を分けているのに対し、タコはポンプ自体が分かれている、と考えると少し分かりやすい。三つが同じ仕事を交代でしているわけではない。
しかも、三つの拍動は脳から一拍ずつ命令されているわけでもない。1980年の心拍制御の研究では、中枢神経系につながる内臓神経を切り離しても、三つの心臓は力強く協調して拍動を続けた。えらの近くにある神経節と心臓側の仕組みがリズムを作ると考えられている。
血の色も違う。人間のヘモグロビンは鉄を含み、酸素と結びつくと赤く見える。タコやイカの血で酸素を運ぶのは、銅を含むヘモシアニン。こちらは酸素と結びつくと青くなる。青い照明のせいで青く見える、という水族館の話ではなく、本当に青い血だ。
泳ぐと止まるのは「体心臓」
タコは胴体に海水を取り込み、漏斗から勢いよく噴き出して移動する。いわゆるジェット推進だ。1987年のJournal of Experimental Biology掲載論文では、マダコの背大動脈で血圧と血流を測り、ジェット移動に心停止が伴うと報告している。
ここで止まるのは、全身へ血を送る体心臓。ジェットを生むには外套膜を強く収縮させる必要があり、その内側の圧力が上がる。すると静脈の血が圧力に逆らって心臓へ戻りにくくなり、ポンプが止まる。怖い話に見えるが、故障ではなく体の構造から起きる現象だ。
同論文では、タコが抱えられる酸素不足の余裕を1キログラムあたり22ミリリットル程度と見積もり、ジェット推進で進めるのは数メートルを超えないとしている。逃げる瞬間には速い。でも、そのまま長距離を走り続ける設計ではない。
普段は腕で歩くほうが都合がいい
水槽のタコを見ると、泳ぐより底や岩を腕でたどっている時間が長い。あれはのんびりしているというより、体の仕組みに合った移動だと考えたほうがよさそうだ。
心臓が三つある生き物、と聞いたときは、心肺能力まで三倍くらいありそうに感じた。実際は速く泳ぐたびに全身用ポンプが休む。数が多いほど強い、という雑な見方をタコがきれいに外してくる。
写真の個体も、岩の間に体を置いたまま腕だけを伸ばしている。三つの心臓を持つわりに、移動のしかたはかなり堅実だ。
見たもの
- Smithsonian Ocean:Octopuses, Squids and Relatives
- Wellsほか「Blood flow and pressure changes in exercising octopuses」
- Wells「Nervous Control of the Heartbeat in Octopus」
2026年8月4日確認。アイキャッチ:Lee Vilenski/Wikimedia Commons、CC BY-SA 4.0。表示時にトリミングしています。この加工画像も同ライセンスで提供します。